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シネマ日記 2022
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『橋の上の娘』 (1999年 仏)

何と言ってもこの映画の挿入曲「Who will take my dreams away?」がすばらしい。マリアンヌ・フェイスフルが歌っているのだが、彼女の波乱に満ちた経歴とも重なって、この歌がこの映画を一層高めている。映画の物語は、ナイフ投げの曲芸師をしている中年男性ガボールと、橋の上からセーヌ川に身投げしようとするまだ若い22歳のアデルとの出会いから始まる。人生に美しい未来を託しながら男を次々と遍歴してゆく軽率で浮薄な娘の運命と、ナイフ投げの(まと)になってくれる女を探すガボールの危険な職業の運命が交錯する紆余曲折の物語だ。

ストーリーも面白いのだが、この曲「Who will take my dreams away?」「(誰が私の夢を奪うの?)」というタイトルに注目してみた。五体満足の22歳の娘が自分の人生にどんなに絶望していようとも、ナイフ投げのガボールには、単に浅ましく滑稽にしか映らないほど、地べたを這うようにしか生きられなかった自分の過去を投影しているわけだが、いざ彼の目の前でセーヌ川に娘が身投げするや、ガボールはすぐに上着を脱ぎ、自らもセーヌ川に飛び込んで彼女を救う場面は、この映画の骨格となっている。娘の夢とガボールの夢が相容れないそれぞれの運命的な要素だとしても、男はプラス的に生き、女はマイナス指向的にしか生きられない、そんな二人は、結果として+と-の磁力で互いに惹かれ合い、最後にやがて互いに必要な存在であることに気付き合うのはよかった。

娘の夢を奪うものは誰か。まだ若すぎて自己形成ができていない無明(むみょう)の自我。大人になっても本能のままにしか生きられない煩悩に翻弄される者は多い。だが、誰しもいつしか自分の道を歩いているもので、道を持っていない者は何者かに洗脳されやすくもなり、ますます煩悩の沼に陥りやすいのかもしれない。自分が最も好きなものを道にして、それで生計が成り立てばこの上もなく幸せなはずである。映画『橋の上の娘』はそれらを端的に表現した上質な作品だ。いかにもフランス映画らしい感動作といっていいものだ。素晴らしい。なお、下の挿入曲の長さは6分余りだが、「風景が見える音の世界」に紹介した同曲はボーカルのみの3分余りの長さになっている。どう違うのか、聴き比べてみると、6分余りの曲のほうが演奏のみを追加していて、いろいろと憶測できるので、その点も楽しめるようだ。



(2022/11/17)

文・古川卓也





制作・著作 フルカワエレクトロン

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